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7 誘い

last update publish date: 2026-08-05 15:59:34

 滑り台などがあるアスレチック型の大きな遊具で遊ぶ俊太を見守っていると、また声をかけられた。

「あ、坂本さん、ですよねー?」

 私より少し年上であろう女性で、見覚えがある。

 たしか郁人の職場の人だ。

 私は笑顔を張り付けて、

「こんにちは、いつも夫がお世話になっております」

 と言い、頭を下げる。

「いいえ。お子さん、連れて遊びに来たんですか?」

「はい、あの、ここの公園遊具が多いって聞いて」

 そう答えると、女性は大きく頷く。

「そうなんですよー。うち、近いからよく来るんですけど、ここで遊ぶところん、って寝てくれていいんですよねー」

 と言い、笑う。

「うちも男の子だから、体力有り余って」

「あはは、そうなんですね。うちも元気で」

 そんな話をしつつ、私は俊太の様子を眺める。

 俊太、楽しそう。連れてきて良かった。

 少し世間話をした後、女性はこちらの様子をうかがうように言った。

「坂本さんと奥さん、年齢離れてますよね?」

「あ、はい。十歳離れてて」

「そうなんですね! 坂本さんって、年下にすごく人気なんですよねー。学生たちとも仲良くって。高校生にも懐かれてて」

 高校生、という言葉が何だか引っかかる。

 その話を聞きながら思わず顔が引きつってしまう。

「あぁ、郁人、見た目が若々しいですからね」

 そう苦笑して言うと、女性はうんうん、と頷く。

「そうなんですよねー。この間もなんか、うちの元学生バイトと一緒にいたみたいなんですけど。でもこんなに若い奥さんいるし、浮気なんてしないですよねー」

 元学生バイトといっしょにいた……?

 その言葉が引っかかり、私は顔を歪ませて尋ねた。

「あの、どういうことですか……?」

 すると、女性はわざとらしく大きく目を見開いて口元に手を当てる。

「やだ、ご存知ない? えーと、うちで高校生の時にバイトしていた子。柳瀬美波ちゃん、ていうんですけど、その子とよく一緒にいるって噂があってー! いくらなんでも大学一年生と浮気なんてするわけないしねー」

 と、笑いながら言う。

 確かに普通ならそんな年齢の子と浮気なんてしないだろう。

 でも、大卒すぐの私に声をかけてきたくらいだし、ありえなくはない。

 まさかこの間見た人、その子……?

 大学一年生って十代じゃないの。

 やだ、気持ち悪い。

 ごちゃごちゃと考えているとそこに、東雲さんの声がした。

「あ、坂本さん!」

 その声にハッとして振り返ると、東雲さんがさくらちゃんと一緒に近づいてくる。

「あれ……あの人……わ、私はこれで!」

 女性はそそくさと去って行き、自分の子供の所に近づく。

 なんだか東雲さんの事を知っていそうな感じだったけれど、なんだろう?

 私は何とも言えない気持ちを抱えつつ、東雲さんの方へと目を向けた。

「あの、お昼はどうする予定ですか?」

「え? あぁ、どこかで食べて行こうかなと思っています」

 うちからこの公園までの間にファミレスがあったから、帰り、そこによって行こうかと思っていた。

 するとさくらちゃんが私を見上げて言った。

「いっしょにたべよ!」

「え? あ、でも……」

 どうしようかと迷っていると、東雲さんが苦笑を浮かべて言った。

「すみません、どうしてもさくらがいっしょにお昼食べたいと言って。迷惑だよ、と言ったんですが」

「迷惑じゃないもん。いいよね、俊太君ママだもん」

 子供に言われると弱いなぁ。

 ママ友とかいない私には新鮮な話だった。

 断るのはさくらちゃんが可哀そうに思ってしまい、私は頷く。

「わかりました」

「わーい! 遊んでくる!」

 さくらちゃんは叫んで、遊具に走っていく。

 その姿を見送っていると、東雲さんが横に立ち、申し訳なさそうに言った。

「すみません。何度も言い聞かせたんですが……聞かなくて」

「大丈夫ですよ。ご飯食べに行くだけですし、子供たちもいますから」

 そう笑って答えると、東雲さんはほっとしたような顔になる。

「外で同じ保育園の子と遊ぶことがなくて。父子家庭なので母親たちの輪にはなかなか入りにくく」

 気まずそうな言葉に、私も苦笑を浮かべる。それはそうでしょうね。

 送り迎えとか圧倒的に母親が多いし。

「柏木さんがこられなくなって、さくらもショックだったんですけど、坂本さんとアニメの話ができるって喜んでいて。よかったです」

「それならよかったです」

「坂本さん、代わりの人が見つかるまで、なんですよね」

 そう言われると、ちょっときまずい。

 私はあくまで繋ぎに過ぎないからだ。

 だから小さく頷き、

「そうですね」

 と答える。

「あの、坂本さんがうちで働くわけにはいかないんです……かね?」

 遠慮がちな言葉に、私は目を大きく見開いて東雲さんを見た。

「え、あ、わ、私が?」

「はい。えーと、事務をされているとうかがいましたが、あの、料理が得意だとも聞きました」

 宮園さん、そんなことまで東雲さんに言ったの?

 私の表情の変化に気がついたのか、東雲さんが慌てだす。

「宮園さんに、自分の方から提案したんです。坂本さんはどうかと。その時にちょっと伺いまして。でも時間とか考えると厳しいかということを言われて。なのにご本人に言うのはダメかもしれないですが……」

 そう、情けない声を出す。

 お母さんがいないし、しかも子供は女の子。いろいろとわからないことが多いんだろうな。

 正直心は揺らぐ。でもそれは同情心からだ。仕事は同情だけじゃあできない。

 私は悩んだ末、

「ちょっと、宮園さんと相談してみますね」

 と答えるのが精いっぱいだった。

 今の私には、郁人の浮気疑惑のことがあって、そういうことを決められる気分ではないからだ。

 その言葉に、東雲さんは小さく、

「すみません、変なこと言って」

 と言う。そして笑顔で、

「忘れてください。あの、とりあえず今日はよろしくお願いします」

 と、頭を下げた。

 

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