LOGIN滑り台などがあるアスレチック型の大きな遊具で遊ぶ俊太を見守っていると、また声をかけられた。
「あ、坂本さん、ですよねー?」 私より少し年上であろう女性で、見覚えがある。 たしか郁人の職場の人だ。 私は笑顔を張り付けて、 「こんにちは、いつも夫がお世話になっております」 と言い、頭を下げる。 「いいえ。お子さん、連れて遊びに来たんですか?」 「はい、あの、ここの公園遊具が多いって聞いて」 そう答えると、女性は大きく頷く。 「そうなんですよー。うち、近いからよく来るんですけど、ここで遊ぶところん、って寝てくれていいんですよねー」 と言い、笑う。 「うちも男の子だから、体力有り余って」 「あはは、そうなんですね。うちも元気で」 そんな話をしつつ、私は俊太の様子を眺める。 俊太、楽しそう。連れてきて良かった。 少し世間話をした後、女性はこちらの様子をうかがうように言った。 「坂本さんと奥さん、年齢離れてますよね?」 「あ、はい。十歳離れてて」 「そうなんですね! 坂本さんって、年下にすごく人気なんですよねー。学生たちとも仲良くって。高校生にも懐かれてて」 高校生、という言葉が何だか引っかかる。 その話を聞きながら思わず顔が引きつってしまう。 「あぁ、郁人、見た目が若々しいですからね」 そう苦笑して言うと、女性はうんうん、と頷く。 「そうなんですよねー。この間もなんか、うちの元学生バイトと一緒にいたみたいなんですけど。でもこんなに若い奥さんいるし、浮気なんてしないですよねー」 元学生バイトといっしょにいた……? その言葉が引っかかり、私は顔を歪ませて尋ねた。 「あの、どういうことですか……?」 すると、女性はわざとらしく大きく目を見開いて口元に手を当てる。 「やだ、ご存知ない? えーと、うちで高校生の時にバイトしていた子。柳瀬美波ちゃん、ていうんですけど、その子とよく一緒にいるって噂があってー! いくらなんでも大学一年生と浮気なんてするわけないしねー」 と、笑いながら言う。 確かに普通ならそんな年齢の子と浮気なんてしないだろう。 でも、大卒すぐの私に声をかけてきたくらいだし、ありえなくはない。 まさかこの間見た人、その子……? 大学一年生って十代じゃないの。 やだ、気持ち悪い。 ごちゃごちゃと考えているとそこに、東雲さんの声がした。 「あ、坂本さん!」 その声にハッとして振り返ると、東雲さんがさくらちゃんと一緒に近づいてくる。 「あれ……あの人……わ、私はこれで!」 女性はそそくさと去って行き、自分の子供の所に近づく。 なんだか東雲さんの事を知っていそうな感じだったけれど、なんだろう? 私は何とも言えない気持ちを抱えつつ、東雲さんの方へと目を向けた。 「あの、お昼はどうする予定ですか?」 「え? あぁ、どこかで食べて行こうかなと思っています」 うちからこの公園までの間にファミレスがあったから、帰り、そこによって行こうかと思っていた。 するとさくらちゃんが私を見上げて言った。 「いっしょにたべよ!」 「え? あ、でも……」 どうしようかと迷っていると、東雲さんが苦笑を浮かべて言った。 「すみません、どうしてもさくらがいっしょにお昼食べたいと言って。迷惑だよ、と言ったんですが」 「迷惑じゃないもん。いいよね、俊太君ママだもん」 子供に言われると弱いなぁ。 ママ友とかいない私には新鮮な話だった。 断るのはさくらちゃんが可哀そうに思ってしまい、私は頷く。 「わかりました」 「わーい! 遊んでくる!」 さくらちゃんは叫んで、遊具に走っていく。 その姿を見送っていると、東雲さんが横に立ち、申し訳なさそうに言った。 「すみません。何度も言い聞かせたんですが……聞かなくて」 「大丈夫ですよ。ご飯食べに行くだけですし、子供たちもいますから」 そう笑って答えると、東雲さんはほっとしたような顔になる。 「外で同じ保育園の子と遊ぶことがなくて。父子家庭なので母親たちの輪にはなかなか入りにくく」 気まずそうな言葉に、私も苦笑を浮かべる。それはそうでしょうね。 送り迎えとか圧倒的に母親が多いし。 「柏木さんがこられなくなって、さくらもショックだったんですけど、坂本さんとアニメの話ができるって喜んでいて。よかったです」 「それならよかったです」 「坂本さん、代わりの人が見つかるまで、なんですよね」 そう言われると、ちょっときまずい。 私はあくまで繋ぎに過ぎないからだ。 だから小さく頷き、 「そうですね」 と答える。 「あの、坂本さんがうちで働くわけにはいかないんです……かね?」 遠慮がちな言葉に、私は目を大きく見開いて東雲さんを見た。 「え、あ、わ、私が?」 「はい。えーと、事務をされているとうかがいましたが、あの、料理が得意だとも聞きました」 宮園さん、そんなことまで東雲さんに言ったの? 私の表情の変化に気がついたのか、東雲さんが慌てだす。 「宮園さんに、自分の方から提案したんです。坂本さんはどうかと。その時にちょっと伺いまして。でも時間とか考えると厳しいかということを言われて。なのにご本人に言うのはダメかもしれないですが……」 そう、情けない声を出す。 お母さんがいないし、しかも子供は女の子。いろいろとわからないことが多いんだろうな。 正直心は揺らぐ。でもそれは同情心からだ。仕事は同情だけじゃあできない。 私は悩んだ末、 「ちょっと、宮園さんと相談してみますね」 と答えるのが精いっぱいだった。 今の私には、郁人の浮気疑惑のことがあって、そういうことを決められる気分ではないからだ。 その言葉に、東雲さんは小さく、 「すみません、変なこと言って」 と言う。そして笑顔で、 「忘れてください。あの、とりあえず今日はよろしくお願いします」 と、頭を下げた。デジタルカメラを用意して、ウォーキングに見えるようにジャージに帽子を被る。 これで風景写真を撮るウォーキングの人に見えるかしら。 例の女性が私の顔、知らなければいいけど。知っていたらばれるかな。 私の方はあの女性を見た記憶、ないのよね。 だから顔、知られていないと思いたい。 鏡で自分の格好を確認して、私は大きく息を吸う。「あぁ、緊張するなぁ……」 こんなことした事ないしな。 仕事は済ませた。 夕飯は、東雲さんが買ってきてくれると言っていた。 準備万端。 私は東雲さんに、彼女が通う国立大学の近くまで送ってもらった。 時間は三時半過ぎ。 私は大学のそばを散歩しながらその時を待った。 秋の初め。 まだ暑さが残っていて、動いているとじわり、と汗がにじむ。 大学の周辺には木が多く川もあって、私みたいに散歩やウォーキングをしている人の姿も多かった。 私は辺りを歩きながら、時々写真を撮って辺りを見回す。 これで風景の写真を撮る人にみえる、よね? あぁ、緊張する。 大学の四限目の講義が終わるまであと少し。 正門以外にも門があるけど……どこの門から出てくるかな。 彼女が上げていたマンションの部屋の写真を画像検索してみたら、この近くのマンションぽかった。 本当に、今の子って危機感がない。 おかげでどこの門から出てくるか、予測できてしまう。 たぶん正門から出てくる。そこからが一番マンションに近いからだ。 本当に、大学から徒歩五分のマンションなのかっていう確証はないけれど。 辺りの写真を撮って、散歩しながら私はその時を待つ。 四限目が終わるのは確か四時頃。 あぁ、なんか緊張してきた。 なるべく自然に見えるようにしないと。 心臓が口から飛び出してしまいそうな感覚を覚えながら、私は大学の正門が見える所に立って辺りの風景の写真を撮る。 しばらくして、正門から講義を終えたらしい学生たちが出てくるのが見える。 でてくる。 私は帽子を目深にかぶってじっと、正門を見つめた。 指先が震えて、カメラを握り手に汗がにじむ。 どれくらい経っただろう。 デジカメの液晶を見つめて正門の辺りを拡大していると、見覚えのある女性が友だちらしき人と出てくるのが見えた。 焦げ茶色の髪を後ろで縛っていて、茶色のジャケットを羽織っている。 メイクは
この先の方針はこうなった。 郁人にはまず子供の養育費の請求だ。そして婚姻期間中の財産分与。 私としては、とにかく俊太の権利である養育費をきちんともらいたい。 たいした財産はないけど、貰える物はちゃんと貰いたいし。 秋月さんは、クリアファイルの写真を見つめて言った。「養育費と財産分与は問題ないですが、お相手の女性についてもっと調べて裏付けをとらないと、慰謝料請求とかはできませんがどうしますか?」「そう、ですよね」 それはわかっている。 だって、今集めた情報だけだと浮気の証拠としては弱いよね。 郁人の顔が写っている写真がないのよね。 でもあのリテラシーの低さなら顔が映っている写真、どこかにありそうな気がするけれど。「私にできそうなことってなんですか?」「そうですね。探偵に依頼して彼女の身辺調査をするのが妥当でしょうか。幸い学校も本名もわかっていますから、家を特定するのは簡単でしょう」 やっぱり探偵を雇うしかないか。 そう思うと気が重い。だって何十万、ていうお金がかかってしまうからだ。 「と、とりあえずあの、養育費の請求と財産分与の請求をお願いします。それ以外についてはちょっと考えます」 そう震える声で言うと、秋月弁護士は頷いて、「わかりました。それは進めていきます」 と言った。 浮気の証拠、捜すの難しそうだな。 学校に張り込みしてあとをつければ私でも家の場所を特定できるんじゃないかな。 SNSに今日は何限の講義、とか書いていたし。 そう考えていると、隣から声がした。 「あの、有藤さん」 遠慮がちに言う、東雲さんの声だ。「探偵に、調査してもらいますか? 今さらな部分はあるかもしれませんけど」「え? いや……じ、自分でやってみようかな、と思います」 そう力なく笑って言うと、東雲さんは目を見開く。「え? あ、じ、自分で?」「はい。あの、学校はわかっていますし、本人のSNSから何曜日は何限の講義ってわかっていますから。だから学校の出入り口を見張れば家の場所を特定するのは簡単だと思います。それに、郁人と同じジムに通っているみたいだからふたりで一緒にいる所を写真に撮れるかと」「あまりお勧めはしませんが」 そう、秋月弁護士が苦笑して言う。「素人では見つかるリスクもありますし」「そうかもしれないですけど……探偵を
綺麗なビルの一画に、その弁護士事務所はあった。 鏑木法律事務所。数人の弁護士さんが所属する弁護士事務所だそうだ。 そこの応接室に通された私は、びくつきながら椅子に腰かけた。 眼鏡をかけた、スーツ姿の男性が私たちの目の前に腰かける。 なんだかホストみたいな見た目の人だ。 彼は名刺を取り出してニコニコと笑い言った。「初めまして、秋月と申します」「あ、えーと、有藤涼花といいます。よろしくお願いします」 お茶が運ばれてきたあと、秋月さんは私の方を見て言った。「東雲さんから話は伺っていますが、詳しく状況を教えていただけますか?」 静かに語る秋月さんに、私は頷いて自分の私の身に起きた状況を話した。 まとめてきたメモを見て、そのあとスクショを印刷したものを挟んだクリアファイルをバッグから取り出す。 緊張か、別の理由かわからないけれど手がずっと震えている。 「あぁ、それがお相手のお写真ですか?」「は、はい。あの、できる限りスクショして印刷してきたんですが」 言いながら私は秋月さんにクリアファイルの中身を見せた。「失礼します」 秋月さんは私が集めた画像たちを見て、苦笑を浮かべる。「今時ですねぇ。通っていた学校、行ったところ、今の学校、全部のせているなんて。これじゃあ、住んでいる場所もわかりそうだ」「し、信じられない……俺が大学生の頃はそんなの絶対にネットに書かなかったぞ」 そう、呆れたように呟いたのは東雲さんだ。 それは私も同じ気持ちだった。 個人情報をネットに垂れ流しなんて、ありえないと思うもの。 「おかげでいつ彼とどこに行ったのか全部わかってよかったですけど」 そう苦笑いして言い、私はメモを見る。「私には出張とか、ジム行って来たとか言っていた日にデートしてますからね」「こういうの見つかるって思わないんですかねえ」 東雲さんの言葉に、秋月さんは肩をすくめて苦笑した。「そこまで思っていないのでしょうね。意外と世界は狭いのに」 その言葉を聞いて東雲さんは首を横に振り、「危機感ないもんなんだなぁ……」 と呟いた。「そうですね。しかも彼が妻子持ちだとわかっていて、これだもの。呆れると言うよりもぞっとします」 まるで見せつけて自慢するかのように、郁人と撮った写真をアップしていた。 顔は隠しているとはいえ、見る人見たら
『有藤さん、返信遅くなって申し訳ないです。今月の運動会の日ですが、デリバリーを頼もうと思うのですがいかがでしょうか? 子供も喜ぶしそれに、外だとその、人の目もあると思うので』 というメッセージが返ってくる。 確かに、へたに一緒に食事とかしているのを保育園の人に見られたら面倒よね。 保育園には離婚したことを説明したけれど、保護者にいちいちそんなの説明する必要、ないし、仲いい人がいないから誰にも話していない。 「東雲さん、すごく気を使ってくれるなぁ……」 そういうちょっとした気遣いが嬉しく感じてしまう。 『そうですね。お言葉に甘えさせていただきます』『それじゃあお店は俺の方で考えておきます。あと明日ですけれど、俺もご一緒させていただきますね』 明日。 それはつまり、私が弁護士に会う日だ。 その言葉を見るとどきり、としてしまう。 ひとりじゃ心細いし、東雲さんがいてくれたら心強い、とは思うけれど。 一瞬悩んで、私は返事をする。『そんなの悪いです。私ひとりで大丈夫ですから』『でも俺にもこうなった責任がありますから』 それはそうかもしれないけれど。 東雲さんとあの日、公園で会っていなかったら私は郁人の浮気のこと、気が付きもしないままで今もあのマンションで疲れて鬱々としていたかもしれない。 結果的にどうなのかっていうのはまだわからないけれど。 でも東雲さんには責任、無いと思う。悪いのは全部郁人だ。 ちょっと押し問答した後、結局私は折れた。 東雲さん、一緒に弁護士と会う、と言って譲らなかったからだ。 ありがたいような、なんだか複雑な気持ちだ。 『明日一度会社に行ってからになりますが、十時前にお迎えにあがります』『すみません、よろしくお願いします』 私はスマホをしまい、「よし」 と、気合を入れて子供たちを迎えに行く前の仕事を始めた。 翌日。 子供たちを送り、午前中の家事を終えた頃。 バタバタとお出かけの準備をする私のスマホが鳴る。 そこで初めて時計を見ると、もう約束の十時を迎えようとしていた。「うそ、もうこんな時間?」 私は慌てて、化粧品を引っ張り出す。 いつもはファンデーション位しかしていないけれど、もう少し身ぎれいにしていきたい。 そう思って、私は大急ぎでアイシャドウとマスカラをつけ、ショルダーバッグを
親に、離婚したことを連絡した。『え、あ、え? どういうこと?』 と、困惑した反応が返ってきた。 それはそうよね。 私だって訳が分からないもの。『俊太は? 俊太はどうしてるの?』「俊太は私と一緒。だって、郁人、さんにはご両親いないし。面倒見られないよ」 そう、苦笑して答える。 そうなんだ、郁人の両親は私たちが結婚した後に相次いで亡くなった。 だから郁人を引き取ろうと思わないだろうし、彼女と付き合うにも邪魔、だろう。 そう思うと心が痛い。 慰謝料とかどうでもいいけど、養育費だけはちゃんと払ってほしい。 弁護士さんには、金曜日に会う約束になっている。 そのために情報をまとめるように言われているけれど、集めたスクリーンショットとかを見ると気持ちが悪くなる。 弁護士さんに会うの、明日、なのにな。 息をついて、私は仕事を始めた。 だって、働いている間は余計なことを考えなくて済むから。 家事をして、夕食の買い物に行く。和食がいいらしいから、スーパーを歩きながらメニューを考える。 あぁ、サバの味噌煮がいいな。それとほうれん草のあえ物に、大根の煮物にしよう。あとお吸い物かな。味噌煮は味が濃いし。 買い物をしていると、今朝の食事の様子が頭の中に浮かぶ。 満足そうな皆の顔を思い出すと自然と足取りも軽くなって、夕食のメニューを考えるのも楽しくなる。 俊太とさくらちゃんのおやつも考えて、私は買い物を終えてマンションに戻った。 買ってきたものを片付けて、私は一息ついて甘いカフェオレを飲む。 今、時刻は十二時を過ぎたところだ。 私はお昼を食べて、ひと休みする。 午前中にお部屋のお掃除をしたけど、広い。リビングダイニングに主寝室。東雲さんの書斎に、子供部屋。 それに私たちが使わせていただいている部屋。 ロボット掃除機がいるからそこまで大変ではなかったけれど。 いつまでもここにいるわけにはいかないから、お金溜めてどこかで暮らせるようにしないとな。「がんばろう」 東雲さんに出会えて本当に良かった。 そうじゃなくちゃ私、きっと俊太を抱えて途方に暮れていたから。 人間、想定外なことが起こると思考が上手く回らなくなるんだなって思った。 今は少し冷静になってきて、すぐに離婚届を書いてしまったのを悔やんでいる。 郁人の相手、医学部だって書い
東雲さんの住むマンション。 その部屋は私の思う以上に広かった。 そもそも住み込みで家政婦を雇うことが前提の部屋らしく、キッチンとリビング、それに部屋がもうひとつあった。 こんなに広い部屋があるんだ。 そのことに驚く。 役所で諸手続きを済ませて、保育園にさくらちゃんと俊太を迎えに行きマンションに連れて帰る。 そして俊太を別室に連れていき、「今日からここに住むよ」 と、伝えると、俊太は目を輝かせた。 部屋の中は綺麗に片付けられていて、テレビ台がありテレビが一台置かれている。それでも私たちが住んでいたマンションよりも広い。 俊太は目を輝かせて、室内を探検し始める。キッチンにお風呂もトイレもあって、別にひと部屋ついている。 こんなマンションがあるんだなと心底驚いた。 部屋、広すぎる。 ひと通り探検し終わった後、俊太は私の方を見て、ニコニコとして言った。「パパは?」 そう言われると、私は心が痛い。 離婚の事を説明しようがない私はその場にしゃがんで、俊太に向かって言った。「パパは、ちょっと離れることになるの」「なんで?」 離婚を説明して、わかるだろうか。 いや、まだわからないと思う。 少しずつ説明しよう。 まだ私には、俊太にちゃんと離婚の事を説明できる勇気、ないから。 「お仕事、忙しいからね」 と、伝えなんとか納得させる。 とはいっても大して納得はしてくれなかったけれど。 動画とお菓子で誤魔化したけれど、いつまでも誤魔化せないわよね。 明日は両親に説明しに行かないと。 そして私と俊太と、東雲家との生活が始まった。 朝、六時から私の業務は始まる。 洗濯機を回して、俊太を起こして用意をさせた後、朝食の準備を始める。 朝は簡単でいい、と言われているけれど簡単とは? と思い、事前に宮園さんから聞いた。普段は朝食はパン中心、夕食は和食中心だったらしい。 厚切りのパンを焼いて、半分にカット。それに野菜スープとスクランブルエッグ。ウィンナーを焼く。 それにサラダとヨーグルト。バナナをカットして、カプセルタイプのコーヒーマシンを使ってコーヒーを用意する。 そうしている間に、さくらちゃんと東雲さんが起きてくる。「おはようございます」 そう微笑む東雲さん。すっかり着替えたさくらちゃんがぱたぱたとこちらに近づいてきて言った